証券会社の結びつき

初期の不良債権取引のほとんどは、ロン・パティシベションという復雑な概念を持ち込んで行なわれていた。 ロン・パティシベションは直訳すると、「融資に参加すること」。
外部企業が銀行からロンの中身(返済金を受け取る権利と回収リスク)を買うが、表面的なロン契約を変更しない方法だ。 この方法を使うと、債権者の名義は変更されず、実際の債権回収行為は売却銀行が継続することになるので、弁護士法上の問題が発生しなかった。
銀行にとっては、回収リスクから逃れられるとともに、手数料収入が入る。 投資活動が活発化するにつれ、不良債権の買い切り、つまり債権譲渡の形態を採る取引も増えていった。
この場合、不良債権に関するリスクを熟知した投資会社がじゅうぶんな調査を行なったうえで、売り手である銀行が納得できる回収額で債権を買い切る取引である。 売り手と買い手の双方が納得して実行した取引であるから、買い手は新しい債権者としての正当な権利として回収作業を行なうという考え方をベスにしている。
認められなければ基本的な財産権の侵害になる、ということを法的な拠り所としていた。 こうした時期を経て、サビサ法制定により不良債権の取引をするのに複雑な配慮をしなくて済むようになった。
税務当局の反応の問題はより深刻だった。 そもそも売却した銀行に無税償却が認められるかが不明だったし、債権売買の値段がマケットプライスと違う、つまり、高すぎるか安すぎると見なされてしまうと贈与税がかかるかもしれない懸念があった。
S氏は、投資家の立場で、当時の大蔵省国際局などに何度も問い合わせたが、大蔵省全体には統一見解ができておらず、税務署の担当官によって実際の運用はバラバラだったという。 後日、日本の投資会社であるアトリウムと米国の有力不動産投資会社二社を平等に扱う不動産ファンドを作る時、法律や規制上の複雑な問題にさらに苦労したとのこと。
税務当局だけでなく、国土交通省などいくつもの官庁が、それぞれ整合性に一切配慮しないで規制する体制を敷いている。 S氏が見つけた規制の性格がおもしろい。

適用される規制体系のほとんどは弱者救済、つまり、素人投資家の保護を目的としていた、というのだ。 かえって、プロの投資家には邪魔になっているわけで、明らかにムダな規制だ。
経験豊富な投資会社や機関投資家を守るために公務員が働く必要はないし、税金を投入する必要はない。 一九九七年当時に比べると、不良債権処理を進める枠組みは整備されてきたが、投資家がファンドに投資しやすいような税制改正やその運用の透明性を増す措置など、まだまだ改善の余地が残っている。
外資のぼろ儲けは短期間しか続かなかった一九九七、九八年とバルクセルが多発した。 簿価ベスで何兆円かの不良債権が外資系投資会社へ渡ったが、その買い値は簿価の数%だったので、「外資が買い叩き、ぼろ儲けしている」話が流布していた。
いや、今でも週刊誌などでは、そう表現されているのを見かける。 ぼろ儲けした証拠や外資側の証言が載っていたことはない。
取材過程で、三五%ものリタンを出してすぐに日本の拠点を閉めた外資の噂を聞いたが、確かめようもない。 こうした時に想定されている外資の商売は、不良債権から取り出した不動産を売却することで儲けが確定する。

売り値から買い値を引いた差額が大幅にあれば、ぼろ儲けということになる。 確かに、買い値は安いのかもしれない。
だが、不動産を大幅に高く売らなければならないのに、一九九七年以降だけ見ても、日本の不動産市況は低迷というか、価格下落傾向にあった。 外資系投資会社がぼろ儲けした可能性は十分にある。
他人がぼろ儲けした話を聞くと、うらやましいと思うのと同時に、不正な手段があったのではと疑いたくなるのが人情というもの。 だが、買い手と売り手が合意して成立した価格に文句を言ってもはじまらない。
さらに、残念なことに「あまりに不正な行為だ」と言えるほど、将来予想に使った数字が操作されていたと、誰にも検証できない。 もともと不動産はそれぞれ独自の価値を持つ。
場所や利用形態などによって、それぞれ値段が違う。 加えて、日本の従来の不動産取引では、あまりにも取引価格が開示されてこなかったことがネックとなって公正な取引かどうかが一層判断しにくくなっている。
現在あるいは過去の時点であれば、数少ない、取引価格が分かっている近隣の取引事例を基に、不動産鑑定士がいろんな要素で調節して評価額を割り出すこともできる。 だが、将来予想まではできない。
せめて取引価格デタが揃っていれば、予想法を発達させていくこともできるだろう。 だが、いまだ日本では取引価格の公表事例が増える兆しはない。
現時点では、公正な予想価格は存在しない。 ぼろ儲け期間は(あったとしても)短かったと推測する理由は、一九九七年に外資によるバルク買いが始まってから二年もしないうちに、相当、競争が高まったからである。
一九九制度が動き出しているので、十数社1二十社前後が担保不動産付きの不良債権を買いに行く状態ができあがっていることが確認できる。 競争があるということは当然、買い値が高めに誘導される。
しかも、外国資本、国内資本入り乱れての競争なので、買い手側で談合は起こりそうにない。 が、もし万が一、一部の参加者、収売価格を低めに見積もってDCF法で計算される買い値を低く抑えようとしたところで、他社に案件をさらわれるだけだ。
全参加者法を使っているとみられるが益や転点の取材でこんなことを聞いた。 ある金融機関が実施した不良債権の入札案内に二十社くらいが集まった。

いざフタを開けてみると、売りに出されたのは合計で簿価三億円程度と小さな担保不動産付き不良債権だった。 外資系投資会社から来ていた人から「本国では、日本には百兆円も不良債権があるのだから、いつでも買えるだろうとつぶやきが聞こえてきた、という話だった。
競争相手が増えた半面、金融機関の不良債権処理はあまりスピドアップせず、大きな金額の取引で一気に稼ぐ機会はあまりない様子が浮かび上がってくる。 全体像だと言うつもりはない。
今でも、金融機関と特定の投資会社との一対一の取引は結構あるとも聞く。 この場合は、少しは買い手側に有利な取引となるのだろう。
不良債権が金融機関と借り手企業との長年の関係、しかもその失敗の記録である以上、売り先は日本に根付いて商売していない外資のほうが望ましいという金融機関側の判断も理解できないわけではない。 それでもなお、外資系の間でも競争状態があるということは、買い叩きはしにくいだろう。
それに、金融機関側も相場観を養ったはずだ。 どの程度の価格まで買い手が現れるかと予想し、交渉できる。
あくまで状況証拠からの推論だが、買った不良債権から不動産を抜き出して、すぐに転売する単純な商売で大儲けできる時代は去ったと言えるだろう。 この競争状態は、大きな意義を日本の不良債権市場にもたらした、と私は思う。
公正だと認めるに足る「時価」を決められるようになったことだ。 特定の買い手しかいない状態でも、取引が成立すれば時価と呼ぶことはできる。

この値段は、株式の時価などという時と同じ扱いができる値段だろうか。

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